それだけならばいつものことである。
幻想郷では人間も妖怪も、皆が等しく酒を飲む。
しかし、その酒気はまったく別のものを運んできたのだ。
博麗神社。幻想郷の辺境に立つ大きくもない神社である。
博麗神社の巫女、博麗霊夢のもとに、一見いつものように森の魔法使いがやってきた。
魔理沙「おお、霊夢じゃないか。やっぱり神社には巫女がいないとな」
霊夢 「巫女が神社にいるのは当たり前じゃないの」
魔理沙「そりゃあ今日は巫女のいない神社ばかり見てきたからな。
なんなら霊夢も見てくるといい。ほら、鳥居を出てすぐのところ」
言われたとおりに出てみた霊夢が一瞬にして血相を変えて戻ってきた。
今までいたはずの神社が一寸違わぬ形で四棟並んで目の前に建っていたのだ。
魔理沙「いやあ、見た目だけは壮観ではあるな」
霊夢 「冗談じゃない!面倒事が増えただけじゃないの」
神社が増えても参拝客が増えたわけではない。逆に信仰心が分散されるだけである。
何より、霊夢一人で複数の神社を管理するのは面倒以外の何物でもない。
とりあえず近くにいた鬼に神社のコピーどもを解体させつつ、霊夢は酒気のする方へと出発した。
普段から大小様々の酒気に接しているだけに、今回の酒気は何かが違うことはすぐにわかった。
事実、酒気の強い方角に沿って明らかな異変の兆候があったのだ。
突如大量に発生した魔方陣。乱立する分社。尋常でない数の酒蔵。
そしてそこにあるはずのない妖怪の棲処。
おびただしい数のそれらは酒気に呼応し、鼠算式にその数を増していく。
異変解決は霊夢の仕事である。現に彼女は今までいくつもの異変を解決してきた。
しかし、今回の異変はなぜか一人の力ではどうにもできないような予感がしていた。
酒気は人も妖怪も問わず、すべての者を等しく宴に誘う。
宴は宴を呼び、いつしかそれは途轍もなく巨大なものになっていた。
その巨大なものの中に、確かにその「原因」はあった。